大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鹿児島地方裁判所 平成8年(行ウ)12号 判決

主文

一  被告が、原告らに対し、平成八年九月二日付けでした別紙1文書目録一の(一)及び(三)の各部分並びに同月三日付けでした同目録二の1の(一)及び(三)並びに同2の(一)及び(三)の各部分を開示しないとの各処分をいずれも取り消す。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  請求

被告が、原告らに対し、平成八年九月二日付けでした別紙1文書目録一の各部分及び同月三日付けでした同目録二の各部分を開示しないとの各処分をいずれも取り消す。

第二  本件訴訟の理解に必要な限度で、鹿児島県情報公開条例(昭和六三年三月二八日鹿。「児島県条例第四号以下本条例」といい、特に断らないで条文のみを摘示するときは、本条例をさす。)の内容を示すと次のとおりである(当裁判所に顕著な事実)。

第一条(目的)

この条例は、県民の公文書等の開示を求める権利を明らかにするとともに、県が実施する情報公開施策の推進に関し必要な事項を定めることにより、県民の県政に対す

る理解と信頼を深め、もって県民参加による公正で開かれた県政を一層推進することを目的とする。

第二条(定義)

この条例において「公文書等」とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真及びマイクロフィルムであって、決裁又は供覧の手続が終了し、当該実施機関が管理しているものをいう。

2 この条例において「公文書等の開示」とは、次章に定めるところにより、公文書等を閲覧に供し、又はその写しを交付することをいう。

3 この条例において「実施機関」とは、知事、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、監査委員、地方労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会及び内水面漁場管理委員会をいう。

第三条(解釈及び運用)

実施機関は、県民の公文書等の開示を求める権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、及び運用するものとする。この場合において、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることのないように最大限の配慮をしなければならない。

第七条(公文書等の開示の請求に対する決定等)

実施機関は、前条の請求書を受理したときは、その日から起算して一五日以内に、請求に係る公文書等を開示するかどうかの決定をしなければならない。

2 実施機関は、前項の決定をしたときは、速やかに、書面により当該決定の内容を前条の請求書を提出したもの(以下「請求者」という。)に通知しなければならない。

3 実施機関は、災害その他やむを得ない理由により、第一項に規定する期間内に同項の決定をすることができないときは、必要な限度においてその期間を延長することができる。この場合において、実施機関は、速やかに、書面により延長の期間及び理由を請求者に通知しなければならない。

4 実施機関は、公文書等を開示しない旨の決定(第九条により開示の請求に係る公文書等の一部を開示しないこととする場合の当該開示しない旨の決定を含む。)をしたときは、第二項の書面に非開示の理由を記載しなければならない。

第八条(開示しないことができる公文書等)

実施機関は、開示の請求に係る公文書等に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは、当該公文書等の開示をしないことができる。

二号個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

ア 法令等の定めるところにより、何人でも閲覧することができるとされている情報

イ 実施機関が公表を目的として作成し、又は取得した情報

ウ 法令等の規定による許可、届出その他これらに類する行為に際して実施機関

が作成し、又は取得した情報であって、開示することが公益上必要であると認められるもの

三号法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、開示することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

ア 事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、身体又は健康を保護するために、開示することが必要であると認められる情報

イ 違法又は著しく不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある侵害から個人の財産又は生活を保護するために、開示することが必要であると認められる情報

ウ ア又はイに掲げる情報に準ずる情報であって、開示することが公益上必要であると認められるもの

八号県又は国等が行う監査、検査、取締り、許可、認可、試験、入札、徴税、交渉、渉外、争訟その他の事務事業に関する情報であって、開示することにより、当該事務事業の目的が損なわれるもの、特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるもの又は当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの

第九条(公文書等の一部開示)

実施機関は、開示の請求に係る公文書等に、前条各号のいずれかに該当することにより開示しないことができる情報とそれ以外の情報とが併せ記録されている場合において、開示しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に、かつ、当該請求の趣旨が損なわれない程度に分離することができるときは、開示しないことができる情報に係る部分を除いて、当該公文書等の開示をしなければならない。

第三  事案の概要(請求の原因。争いない事実)

一  当事者

原告らは、五条一号にいう鹿児島県(以下「県」という)の区域内に住所。を有する個人であり、被告は二条三項にいう実施機関の一つである。

二  公文書開示の請求

原告らは、被告に対し、平成八年八月二〇日、六条に基づいて、平成六年度及び七年度の食糧費(県の秘書課、東京事務所、財政課各執行)の支出に係る支出負担行為・支払命令票、請求書及び出席者名簿の一切の資料(以下「本件文書」という。)の開示を請求した(以下「本件開示請求」という。)。

三  公文書性

本件文書のうち、

1  支出負担行為・支払命令票には、担当課、年度、歳出科目、金額、債権者の住所・氏名、支出の内容、支払先金融機関、預金種別、口座番号等が、

2  請求書には、請求の内訳、請求額、債権者の住所・氏名、印、支払先金融機関・口座番号等が、

3  出席者名簿には、懇談会等の出席者の所属・氏名等が、

それぞれ記載されているところ、これらは、二条一項の「公文書等」に該当する。

四  被告の決定(本件処分)

被告は、本件開示請求に対し、次の公文書等一部開示決定通知書のとおり、八条の当該各号に規定する開示しないことができる公文書等に該当することを理由に、一部非開示として非開示部分と非開示理由を記載し、その余を開示する旨の「公文書等一部開示決定」(以下「本件処分」という。甲二~七)をし、これらを原告らに通知した(なお、被告は、債権者の経理担当者名及び担当者印が記載されている部分も非開示としたが、原告らは、同部分について訴訟物にしていない。)。

1  平成八年九月二日付け公文書等一部開示決定通知書による一部非開示部分(別紙1文書目録一のとおり)と非開示理由の記載(甲二(平成六年度の秘書課執行に係る分)、三(平成七年度の同課執行に係る分))

(一)(1) 非開示部分・その1

債権者の住所・氏名等が記載されている部分及び債権者が識別できる部分

(2) 非開示理由の記載

八条三号(事業活動情報)に該当

債権者の住所・氏名等は、法人等に関する情報であって、開示することにより、当該債権者及び同業者に対する県の事実上の評価が明らかになるなど、様々な社会的評価を生み、公正な競争を妨げるおそれがあり、当該債権者の営業上、社会的信用上不利益を与えると認められるものであり、同号ただし書のいずれにも該当しない。

(二)(1) 非開示部分・その2

債権者の取引金融機関、預金種別、口座番号等が記載されている部分

(2) 非開示理由

八条三号(事業活動情報)に該当

債権者の口座番号等は、当該債権者の内部管理に関する情報であって開示することにより、当該債権者に不利益を与えると認められるものであり、同号ただし書のいずれにも該当しない。

(三)(1) 非開示部分・その3

懇談等の相手方等出席者が識別されうる部分(ただし、平成七年度分については「懇談等の相手方等出席者が記載されている部分及び出席者が識別されうる部分」)

(2)非開示理由の記載

八条二号(個人情報)に該当

懇談等の出席者は、個人に関する情報であって原則として非開示であり、同号ただし書のいずれにも該当しない。

八条八号(行政運営情報)に該当

懇談等の相手方は、開示されることによって不信、不快の念を抱き、信頼関係又は協力関係が損なわれ、また、以後の懇談等の出席を拒否されたり、率直な意見交換が控えられるおそれがあり、県の事務事業の円滑な実施に支障を生ずるおそれがある。

2  平成八年九月三日付け公文書等一部開示決定通知書による一部非開示部分(別紙1文書目録二のとおり)と非開示理由の記載(甲四(平成六年度の東京事務所執行に係る分)、五(平成七年度の同事務所執行に係る分)、六(平成六年度の財政課執行に係る分)、七(平成七年度の同課執行に係る分))右1の(一)ないし(三)と同じ

五  本件請求

本件は、原告らが、本件処分で被告が右四のとおり非開示とした部分は、被告摘示の八条各号の非開示事由には該当しないから違法であると主張して、本件処分の取消しを求める事案である。

第四  抗弁(本件処分の適法性・被告)

一八条各号該当についての解釈態度

公文書開示請求権は、憲法二一条に由来する知る権利や、憲法の定める民主主義、国民主権主義、ひいては地方自治の本旨に基づく住民自治の原理等に奉仕するものであるとしても、憲法から直接導き出されるものではなく、本条例によって創設された権利である。

したがって、地方自治体が個々の住民に開示を請求する権利を付与するかどうか、その権利の内容をどのようにするかは、地方自治体がその制度の趣旨を考慮しつつ、自主的に、条例によって決する問題である。県における公文書の開示についても同様であり、食糧費に関する予算の議決方法、あるいはその支出の当否等によって左右されるのではない。

二 秘書課、財政課及び東京事務所の分掌事務と食糧費の性格

1  秘書課、財政課及び東京事務所の分掌事務

(一)  秘書課は、知事・副知事の秘書に関すること、栄典に関すること、知事褒賞に関すること、儀式に関すること等(県行政組織規則一二条)

(二)  財政課は、県の予算その他の県財政に関すること、債権・基金の総括に関すること、県議会との関係に属すること等(同一六条)

(三)  東京事務所は、中央官庁との連絡調整、情報収集、企業誘致、観光宣伝、県産品の販路拡大等(同二四〇条)

の事務をそれぞれ所掌している。

2  食糧費の性格

食糧費は、地方公共団体の行政事務の執行上必要とされる消費的性質の経費がまとめられた需用費のうちの一つであり、会議等の茶菓や昼食、懇談会の会食、災害等に係る事務に伴う補食・夜食等の支出に充てられるものであって、予算議案において、食糧費を含む需用費として、他の予算費目同様、議会の審議に付され、承認されるとともに、監査にも付されているし、食糧費の支出対象には、各種会議用の経費として懇談等の支出も認められている。

三八条二号該当性(個人情報)

同号が、個人情報について非開示の原則を定めたのは、自然人が特定される情報一般について開示義務が免除されるものではないが、個人のプライバシーは最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟であり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であること、しかし、個人に関する情報がいったん開示されると、当該個人に対し回復し難い損害を与えることがあるから、個人の尊厳及び基本的人権を尊重する観点に基づき、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得る情報については、公務員たると非公務員たるとを問わず、原則非開示とすることを定めたものである。この点について、特定の個人に関する情報のうち「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」に限定する原告らの解釈は、独自の見解である。

そして、本件文書のうち、懇談等の相手方出席者及び県側の出席者の所属・氏名並びに出席者が識別できる部分は、同号本文に該当し、また、同号ただし書に規定する非開示の例外項目のいずれにも該当しない。

公務員の氏名が開示されることによって、個人攻撃等によりその私生活・家庭生活の平穏が脅かされ、東京都では食糧費担当課長に対し、料金受取払いで百件余の商品を送りつける等の嫌がらせ(乙二)があったことが報道されていることに思いを寄せれば、原告らの主張が理由のないことは明らかである。

四八条三号該当性(事業活動情報)

同号が、事業活動情報について非開示の原則を定めたのは、法人その他の団体及び事業を営む個人の事業活動の自由その他正当な利益を尊重し、保護する観点からである。

1  ところで、本件文書のうち、

(一)  請求書には、債権者の住所・氏名等とともに懇談会の実施日、請求金額、

請求明細(品名、数量、単価、奉仕料)等の情報が記載されているところ、本件開示請求は、秘書課、財政課及び東京事務所が平成六年度及び平成七年度の二箇年にわたって執行した食糧費の支出に係る全ての公文書が対象となっているか

ら、こうした情報が開示され、また長期間にわたって集積されると、本来事業者のみが管理保有し得べきはずの営業情報や経営内容が当該事業者の意思に反して外部に流出することになり、債権者の正当な利益を害し

(二)  債権者の取引金融機関、預金種別、口座番号等が記載されている部分は、当該債権者の内部管理に関する情報であり、いずれも、事前に当該債権者の同意を得ていない場合、信義則及び取引慣行に照らして第三者に当然に提供できるものでもないことを併せしんしゃくすると、同号本文に規定されている「開示することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」に該当し、かつ、同号ただし書に規定する非開示の例外事項のいずれにも該当しないというべきである。

確かに、本件文書のうち、事業者の口座関係情報等については、一般に発行される請求書に記載されている場合もあるが、これは、特定の取引関係の成立を前提とし当該取引の相手方たる債務者に対して発行するものであるから、このことをもって、広く一般に公表されている情報であるということはできない。

2  同号の解釈について、原告ら主張のように、条例と制度目的及び保護法益の異なる不正競争防止法の営業秘密の定義を当てはめることには合理性がない。そもそも、同法が定義する営業秘密は、私人(私企業)間において、その侵害の防止と差止請求あるいは損害賠償請求の要件等を定めるためのものであるのに、本条例は、県が、自ら管理・保有する法人等事業者の当該事業に関する情報について、これをどの範囲まで公開するかという問題であるからである。

3  原告ら引用の最高裁平成六年二月八日第三小法廷判決が是認した大阪高裁判決(民集四八巻二号三七二頁参照)は「本件の如き請求によって、その顧客先や利用内容等のすべてが明らかにされるというものではなく、数ある顧客のなかの、しかも、地方公共団体の一部門たる府水道部の、かつ、特定の期間の利用状況が明らかにされるだけであるから、かかる事実が公表されたからといって、その営業実態のすべてが明らかとなり、取引上、営業上の秘密が侵されるということにはならない」と判示しているし、その一審の大阪地裁判決(同三五二頁参照)は、「接客業の場合、その顧客先や利用内容等が、営業実態の一部をなす情報であること及びそれらをみだりに公表しないことがその信用の重要な部分をしめることはたしかである」と判示しているところ、右事件の場合、その開示対象期間が一箇月であるのに対して、本件開示請求は、二箇年にわたっているのであるから、むしろ、右最高裁判決の判断からすれば、非開示とすることが許される場合に該当し、したがって、原告らのように、同判決を原告らに有利に引用することはできない。

4  まとめ

よって、本件文書のうち、債権者の住所・氏名等が記載されている部分及び債権者の取引金融機関、預金種別、口座番号等が記載されている部分は、いずれも八条三号本文に該当し、ただし書に該当しない。

五八条八号該当性(行政運営情報)

1  同号が、行政運営情報について非開示の原則を定めたのは、県又は国等が行う事務事業の目的を達成し、又は事務事業の公正若しくは円滑な執行を確保する観点か

ら、同情報を開示することにより、これらに支障の生ずるおそれがあることをおもんばかったからであり、同号にいう「渉外・・・に関する情報」とは、県の行財政運営等の推進のため、外国、国、地方公共団体、民間団体等と行う儀礼、式典、交際、交流等に関する情報をいうものである(甲一の44~45頁)。

2  しかして、右二の1で述べた秘書課、財政課及び東京事務所が所掌している事務を円滑に遂行するために行う懇談等は、これを実施すること自体が、同号にいう「交渉」、「渉外」に該当し、このような懇談等は、右部署のそれぞれが、事業の円滑な執行を図るという行政上の具体的必要を認め、合理的な裁量によって、相手方、場所等を選別・決定した上で行われるものであり、その開催目的や実施の事実等については、関係者間でのみ承知されていることが一般であって、懇談等の相手方も、そのように理解してこれに出席していたものである。したがって、相手方の事前の同意なしに所属・氏名等を開示すると、相手方が不信、不快の念を抱き、お互いの信頼、協力関係が損なわれ、以後の懇談等の出席を拒否されたり、率直な意見交換が控えられるようになり、結果として業務の円滑な実施等、行政運営に支障が生ずるおそれがあると認められるので、同号に該当する非開示文書である。

3  原告らも、一定類型の懇談の場合、その非開示部分の記載内容如何によっては、同号の開示義務が免除される場合のあることを承認しているようであるが、にもかかわらず行政運営情報そのものを具体的に開示して、これを証明せよと主張することは、同号の存在意義を失わせることになる。非開示部分の開示によって、「県政の円滑な執行に支障が生ずるおそれがあること」を具体的に主張立証させることは、公開審理を原則とする現行裁判制度における被告の立証手段の限界を超えるからである。

第五  抗弁に対する認否及び反論(原告ら)

一一の主張は争う。

八条各号該当による非開示決定の判断は、本条例が、憲法二一条一項(表現の自由)に由来する知る権利、同一五条一項(公務員の選定・罷免権)、同九二条(住民自治)、同九三条二項(首長・議員の直接選挙)で保障する参政権等を実質的・具体的に保障しようとする趣旨で立法されたものであることに留意してしなければならない。

1  知る権利

最高裁平成元年三月八日大法廷判決・民集四三巻二号八九頁は、「憲法二一条一項の規定は、表現の自由を保障している。そうして、各人が自由にさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会を持つことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていく上において欠くことのできないものであり、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも必要であって、このような情報等に接し、これを摂取する自由は、右規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところである」と判示している。

2  参政権

知る権利は、民主主義・国民主権の原理に由来するところ、地方自治にあっては、憲法上、直接民主主義が保障され、地方自治法により、地方自治の本旨に基づく諸

制度が整備され、これに基づき、原告ら住民は、首長・議員を選定・罷免し、あるいは、条例制定などの直接請求を行い、県の財務会計行為の監査を求め、非違行為の是正を請求する権限を有するのであるが、住民によるこれらの権限行使を実効あらしめるためには、その資料となる行政機関保有の情報が広く住民に開示される必要がある。

3  本条例の制定

本条例は、表現の自由の派生原理としての「知る権利「参政権=住」、民自治権」等を実質的・具体的に保障すべく制定されたものであり、このことは、一条が「開示を求める権利を明らかにする」と表現し(開示を請求する権利を定めた(あるいは創設した)という表現ではない。)、公文書の開示を原則とし、一定の場合に開示義務を免除する仕組みを採用していること、県が刊行した本条例に関する「情報公開事務の手引」(以下「手引」という。甲一)は、三条の解釈及び運用について「八条各号に規定する適用除外事項に該当するかどうかについては、原則公開の観点から厳正な判断をしなければならない」(11~12頁)と注意を喚起していること、一七条が情報公開施策の推進を、九条が公文書の一部開示を、七条四項が非開示決定に理由付記を、一二条が行政不服審査法に基づく異議申立て等の道を開き、最終的には司法判断を受けられることをそれぞれ規定していること等からも明らかである。

二 1二の2の主張は争う。

(一)  食糧費

食糧費は、歳出予算の款・項・節のうち、節の区分中の「需用費」に含まれる経費であるところ(県予算規則二条三項、地方自治法二二〇条一項、同法施行令一五〇条一項三号、二項、同法施行規則一五条二項別記)、その予算額及び支出が県議会で承認されることはない。予算科目中、「細節」に当たるため、予算書、決算書にもでてこず、議会でもチェックし難く、また、監査委員の監査においても抽出調査の域をでないから、ほとんどノーチェックであった経緯があり、その問題性があまり指摘されてこなかった。この点で、外部折衝費の「交際費」が予算科目中「節」に当たり、予算書、決算書に記載され、県議会のチェックが及びやすいのと対照的である。

需用費とは、地方公共団体の行政事務の執行上必要とされる物品の購入、取得及び修理等に要する経費で、一度の使用でその本来の効力を失うもの及び数年度にわたり使用し得るものではあるが、備品の程度に至らないもの等の取得に要する経費であり、例えば、消耗品費、燃料費、食糧費、印刷製本費、光熱水費、修繕費、賄材料費、飼料費、医薬材料費等が含まれる。そして、食糧費は、例えば、会議用・式日用・接待用の茶菓・弁当、非常炊出賄、警察留置人食料、病院・療養所等の患者食料、宿泊所・保育所等の賄料等に要する経費である。

(二)  食糧費の目的外使用と開示義務免除の当否

県の東京事務所に例をとれば、平成六年度食糧費のうち、一人当たり一万円以上のケースが七〇〇回にも及び、一人当たり四万六〇〇〇円以上のケースもあり、実態は高級料亭での接待費にほかならないし、平成五年度食糧費総額は九二五五万円で、回数は一〇四六回、三月は、閉庁日を除き一日当たり八・四回支出している。

ところで、東京事務所職員が行政事務を円滑に執行するために、県庁外部の者と協議・調査を行うことを目的として行われる懇談等に要する経費は、本来、交際費から支出されるべきものであって、予算の議決においても、交際費の範囲内で被告が交際を行うことが承認、予定されているのに、右の懇談等に要する経費を、食糧費から支出することは、予算の目的外使用として違法であるから、かかる違法な支出を伴う懇談等について八条八号にいう「公正若しくは円滑な執行」という公益概念を過大視することは適当ではない。

(三)  食糧費の目的内使用と開示義務免除の当否

食糧費の支出が、食糧費本来の支出目的に則しているのであれば、懇談等の相手方は、県庁の職員(公務員)であるから、同条二号及び八号を問題とする余地はない。

三三の主張は争う。

1  八条二号の解釈

(一)  被告は、同号について、自然人が特定される情報一般について開示義務が免除されると主張するかのようであるが、かかる主張は、条文に「包括的に」と、「か公務員を除外しない」という文言がないばかりか、被告のような解釈では、ある「個人に関する情報」が公開されることはおよそあり得ないように思われること、三条が「実施機関は、県民の公文書等の開示を求める権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、及び運用するものとする。この場合において、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることのないように最大限の配慮をしなければならない」と規定し、「みだりに」と限度を定めていること、及び手引(甲一の11~12頁)が「八条各号に規定する適用除外事項に該当するかどうかについては、原則公開の観点から厳正な判断をしなければならない」といっていることに照らし、理解し難い。

(二)  要するに、八条二号は、憲法一三条が保障する個人のプライバシーの権利、すなわち私生活をみだりに公開されない権利の保護を目的とするものであり、同号のいう「特定の個人が識別され、又はされ得るもの」とは、特定の個人に関する情報のうち「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」であって、かかるものについて、その開示義務を免除したものと理解すべきである。したがって、その情報が、ある特定の自然人に関するものであっても、その公開によって、個人のプライバシー権の侵害が生じない場合は、開示義務は免除されないのである。

2  公務員の公務遂行におけるプライバシー

公務員の公務遂行において、私人としてのプライバシーを観念することは相当でない。公務員の地位にある者のプライバシーが問題となるのは、公務員の私人としての側面についてである。例えば、「懇談(宴会)」等という公務に従事中、気分が悪くなって救急車で病院に搬送されたという事項は、その公務員のプライバシーに係ることとして開示義務が免除されることになる。しかし、その「懇談(宴会)」等が公務であり、それに出席した県職員はもちろん、相手方たる国等の行政庁の公務員ないし公務員に準ずる者が、公務として参加していた以上、私生活上の事実とは一切無関係の、純粋に公務としての公的会合であるから、個人のプライバシー権の侵害を問題とする余地はおよそなく、したがって、懇談(宴会)等への出席の事実に係る情報の開示義務は免除されない。

四四の主張は争う。

1  八条三号は、公文書開示請求権が、人権上及び民主主義・住民自治原理上、極めて重要な権利であるが、他方、開示情報関連事業者の財産上の権利・利益もみだりに損なわれることのないように調査し、利益衡量するために設けられたものである。

本条例が、「当該法人に不利益が生じる」等という文言ではなく、「競争上の地位その他正当な利益が損なわれる」という文言を採用したことを考慮すると、開示義務が免除される情報は、「秘密として管理せられる生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報にして公然と知られていないもの(不正競争防止法二条四項)」に該当する情報であって、それらに実質的な被害が客観的に生じる場合に限定されるものであって、ノウハウや営業秘密に該当しないような情報は、開示義務が免除されないと解すべきであり(手引(甲一の32頁の4の(1)、(2))が、「生産技術上又は販売・営業上の情報」や「経営方針、経理、労働管理等事業活動を行う上での内部監理に属する事項に関する情報」を例示していることも、この観点から正当である。)、被害のおそれが杞憂の程度のものであったり、利益衡量上保護に値しない内容あるいは程度のものであれば、開示義務は免除されない。

2  被告が主張する類の社会的評価は飲食店自身が広く宣伝し、一般に知られている事柄であり、債権者の住所・氏名等が記載されている部分の情報を開示することで、「当該事業者に対する様々な社会的評価が生じ、公正な競争を妨げるおそれがある」とする被告の本件処分での非開示理由が正しいとすれば、飲食業者が通常の営業活動を行えば(すなわち、飲食物を提供し、料金を請求・受領し、請求書や領収書を発行すれば)、それだけで、その事業者の正当な利益が損なわれるという奇妙なことになりかねない。もちろん、営業秘密といえる経営方針は請求書等からは判明しない。まして、「いつ、誰に、どのようなものをいくらで提供し、支払がどのように行われているかという情報」が、情報公開による利益を犠牲にしてまで保護されるべき特別の営業上のノウハウであるとは到底考えられない。

3  口座番号関係情報及び代表者印影についても、当該飲食店が一般に発行する請求書に記載されており、一般的に明らかにされているものであるから、これらが営業上の情報であるとしても、秘密に管理されることもなければ、公然と知られないものでもなく、これらを公開することによって当該飲食店を経営する競争上の地位が害されたり、社会的評価の低下その他正当な利益を害されることはありえない。

4  被告の非開示理由に関する主張からは、開示することにより、「当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益」が何であり、それらを「害すると認められるもの」が何であるかが分からない。県と取引をしていることが判明したとしても、「当該事業者の社会的評価」にマイナスの「重大な影響を及ぼす」とは解されない。

大阪府水道部懇談会議費情報公開訴訟の最高裁平成六年二月八日第三小法廷判決・民集四八巻二号二五五頁は「本件文書には、飲食店を経営する業者の営、業上の秘密、ノウハウなど同業者との対抗関係上特に秘匿を要する情報が記録されているわけではなく、また、府水道部による利用の事実が公開されたとしても、特に右業者の社会的評価が低下するなどの不利益を被るとは認め難い」(同二五八頁)と判示して、事業活動情報性を否定した原審の判断を支持している。

五五の主張は争う。

1  被告が八条八号該当と主張している内容は、抽象的にすぎる。

同号該当を主張するのであれば、まず、「交渉、渉外・・・その他の事務事業」に該当する懇談(宴会)等の存在あるいは懇談(宴会)等の際に行われた交渉・調査等の存在を主張立証し、次いで、非開示部分の開示によって「県政の円滑な執行に支障が生ずるおそれがあること」(被告の言葉)を具体的に主張立証しなければならないのに、被告は、これらを全く主張しないか、極めて抽象的に主張しているにとどまる。このような態度は、前記のとおり、手引(甲一の11~12頁)で、被告が「八条各号に規定する適用除外事項に該当するかどうかについては、原則公開の観点から厳正な判断をしなければならない」といっていることに照らしても理解し難い。

以下、懇談等を類型化して、同号該当性を検討する。

2  単なる儀礼的な懇談(宴会)の場合(以下「類型Aの懇談」という。)

右の場合、その事実が明らかになったとしても、相手方に不信、不快の感情を抱かせることを懸念する必要はない。そのような懸念を心配する必要がある場合は、県を代表して儀礼的な交際事務を行う被告知事の場合に限られよう。したがって、右の場合、開示義務は免除されない。

3  特定の事業の施行のために必要な事項について関係者との内密の協議を目的とする懇談(宴会)の場合(以下「類型Bの懇談」という。)

右の場合、行政運営情報に該当しうる場合もあるが、右情報の開示により行政運営の支障のおそれが生じることを具体的に主張しないと行政運営情報性の判断はできないところ、被告は、具体的に主張しないから、本件において、開示義務は免除されない。

4  関係行政庁等との単純な事務打ち合わせ等を目的とする懇談(宴会)の場合(以下「類型Cの懇談」という。)

(一)  右の場合、一定の具体的問題意識をもたないで、漠然と行政事務をより円滑に執行するとの目的で、飲食を伴う懇談それ自体を目的とする会合であるから、同号にいう「交渉、渉外」に該当しない。

仮に、「その他の事務事業」が開催された場合であっても、それに参加することは社会通念上何ら不名誉若しくは嫌悪すべき事柄ではないから、相手方の氏名が明らかになる情報を公開しても、相手方において不信、不快の念を抱き、また、懇談の内容等について様々な憶測等がなされることを危倶して、以後懇談への参加を拒否したり、率直な意見表明をすることを控える事態は考え難い。

(二)  相手方の不満の不合理性

仮に、相手方の氏名が明らかになる情報を公開することにより、県政における相手方の位置づけ、評価等が明らかになり、そのことに不満をもつ相手方があったとしても、県政における相手方の位置づけは懇談会等における接待の内容によってのみ定まるものではないし、懇談の相手が、私人である場合はともかく、国等の行政庁の公務員ないし公務員に準ずる者である場合(すなわち、公務員による公務員の接待の場合)には、相手方がその不満を理由として県との関係における自己の公務の遂行の仕方が影響を受けることはあり得ないし、あってはならないことである(仮に、接待の内容で公務の遂行が影響されるとすれば、それは、公務員の服務規律に違反するのはもちろん、贈収賄の問題ともなる)か。ら、右不満には合理的理由はない。

(三)  したがって、類型Cの懇談の場合、その実施を内密にする必要はなく、むしろ、一条にいう「県政に対する県民の信頼と理解を深め」るべき場合に該当し、開示義務は免除されない。

第六  証拠の関係は、本件記録中の書証目録のとおり。

理由

第一  本条例における公文書等開示請求権の性質と本条例の解釈態度

一  知る権利と情報公開

憲法二一条一項の規定は、表現の自由を保障しているところ、各人が自由にさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会を持つことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていく上において欠くことのできないものであり、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも必要であって、このような情報等に接し、これを摂取する自由は、右規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところであり、右「表現の自由」の派生原理として導かれるものの一つに「知る権利」がある(最高裁昭和四四年一一月二六日大法廷決定・刑集二三巻一一号一四九〇頁、同昭和五八年六月二二日大法廷判決・民集三七巻五号七九三頁、同平成元年一月三〇日第二小法廷決定・刑集四三巻一号一九頁、同平成元年三月八日大法廷判決・民集四三巻二号八九頁参照)。

また、知る権利のうち、政府・行政情報の開示請求権としての「知る権利」(狭義の「知る権利」)は、民主主義・国民主権の原理にも由来する。憲法上、首長等の直接選挙(九三条二項)が保障され、九二条を受けて、地方自治法により、地方自治の本旨に基づく諸制度が整備され、これに基づき、原告ら住民は、首長・議員を選定・罷免し、あるいは、条例制定などの直接請求を行い、県の財務会計行為の監査を求め、非違行為の是正を請求する権利を有するのであるが、これら直接民主制に近い統治機構を与えられている住民による権限行使を実効あらしめるためには、その資料となる行政機関保有の情報が広く住民に開示される必要がある。

このことは、しばしば引用される、アメリカ合衆国憲法の起草者の一人で、同憲法の父といわれているジェームズ・マディソンの「人民が情報を持たず、情報を入手する手段を持たないような人民の政府というのは、喜劇への序章か悲劇への序章にすぎない。知識を持つ者が無知な者を永久に支配する。みずからの支配者であらんとする人民は、知識が与える権力でもってみずからを武装しなければならない、一」九六六年成立したアメリカ合衆国の情報公開法の翌六七年施行に際してのラムゼー・クラーク司法長官の「もし政府が真に人民の人民による人民のためのものであるなら、人民は政府の活動の詳細を知っていなければならない。秘密ほど民主主義を減じるものはない。自己統治、すなわち国家の事項への市民による最大限の参加は、公衆に情報が与えられていて初めて意味のあるものになる。われわれがいかに統治されているのかを知らずして、どのようにしてみずからを統治することができようか。政府がきわめて多くの場面で各個人に関わっている現代の大衆社会においてほど、その政府の活動を知る人民の権利が確保されることが重要なときはない」との言葉(例えば、松井茂記「アメリカの情報公開法(1)」ジュリスト一〇九〇号一〇五~一〇六頁参照)の意味をかみしめれば、よりよく理解できるであろう。

二  本条例の制定と公文書開示請求権

しかし、知る権利といっても、具体的中身を明確に定めた立法等がない限り、その内包、外延は不明確であるから、未だ抽象的な権利にすぎず、裁判規範としての具体的権利とはいえないものである。

ところで、県は、昭和六三年三月二八日、本条例を制定したが、前記のとおり、一条で、本条例の目的を「県民の公文書等の開示を求める権利を明らかにするとともに、県が実施する情報公開施策の推進に関し必要な事項を定めることにより、県民の県政に対する理解と信頼を深め、もって県民参加による公正で開かれた県政を一層推進すること」と規定して実施機関が保有する公文書等の開示を求める県民の権利を設定することを明確にうたい、三条で、本条例の解釈及び運用について「実施機関は、県民の公文書等の開示を求める権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、及び運用するものとする。この場合において、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることのないように最大限の配慮をしなければならない。」と規定し、情報公開制度の基本理念である原則公開の立場を明らかにし、五条で、公文書等の開示を請求することができるもの(以下「開示請求権者」という。)として「県の区域内に住所を有する個人及び法人」等を規定し、六条で、公文書等の開示の請求方法について規定し、七条で、実施機関は、開示請求書を受理したときは、その日から起算して一五日以内に請求に係る公文書等を開示するかどうかの決定をし、その決定の内容を請求者に通知しなければなければならないなどの公文書等の開示請求に対する決定等の手続を規定し、八条及び九条で、実施機関は、開示請求に係る公文書等に八条各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは、当該公文書等の全部又は一部の開示をしない決定ができる旨規定し、同決定に不服がある者は、行政不服審査法に基づく不服申立てができることを前提に、一二条で、不服申立てがあった場合の手続について規定している。

このような本条例の規定を検討すると、本条例は、地方自治の場において、県民等に、実施機関の管理する公文書等の開示を求める権利(以下「公文書開示請求権」という。)を設定することにより、県民等の県政に対する理解と信頼を深め、もって住民自治の本旨に則った県民参加による県政を推進するために制定されたものであって、県の保有する情報は、八条各号に規定する適用除外事項に該当しない限り公開しなければならず、同適用除外事項の該当性についても原則公開の観点から厳正な判断をしなければならないと解される。手引(甲一の11~12頁)が、三条の解釈及び運用について「八条各号に規定する適用除外事項に該当するかどうかについては、原則公開の観点から厳正な判断をしなければならない」と注意を喚起していることも、このことを示唆する。

そうとすれば、本条例は、公文書開示請求権の内容を具体的に設定したことにより、県民等の憲法上の抽象的な権利であった「知る権利」を地方自治の場において実効あらしめるために、裁判規範としての性格を有する「公文書開示請求権」という具体的権利に結実させたものと解するのが相当であるから、本条例の解釈、適用に当たっては、右の趣旨・目的、公文書開示請求権の由来、趣旨を踏まえながら、各規定を法文解釈の一般原則に従って、合理的、客観的に解釈し、具体的事件に当てはめていくことが必要であり、かつ、それで足りるというべきである。

第二  食糧費の性質について

一  食糧費の意義と交際費との違い

1  食糧費は、歳出予算の款・項・節のうち、節の区分中の「11 需用費」に含まれる経費である。需用費とは、地方公共団体の行政事務の執行上必要とされる物品の購入、取得及び修理等に要する経費で、一度の使用でその本来の効力を失うもの及び数年度にわたり使用し得るものではあるが、備品の程度に至らないもの等の取得に要する経費であり、例えば、消耗品費、燃料費、食糧費、印刷製本費、光熱水費、修繕費、賄材料費、飼料費、医薬材料費が含まれる(県予算規則二条三項、地方自治法二二〇条一項、同法施行令一五〇条一項三号、二項、同法施行規則一五条二項別記)。

右の食糧費には、例えば、会議用・式日用・接待用の茶菓・弁当、非常炊出賄、警察留置人食料、病院・療養所等の患者食料、宿泊所・保育所等の賄料等に要する経費がこれに含まれる(ぎょうせい発行「自治用語辞典」全訂版500~501頁)が、普通地方公共団体の長その他の執行機関が、当該普通地方公共団体の行政事務、事業を執行する過程において、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の茶菓、食事を提供して接遇を行うことは、当該地方公共団体も社会的実体を有するものとして許容されるところであるから、右にいう会議用・式日用・接待用の茶菓・弁当の中には、宴会も含むものと解される(地方自治講座第七巻「地方財務」宮元義雄著一〇〇頁参照。なお、事案は異なるが、最高裁昭和六三年一一月二五日第二小法廷判決・判例時報一二九八号一〇九頁、同平成元年九月五日第三小法廷判決・同一三三七号四三頁、同平成元年一〇月三日第三小法廷判決・同一三四一号七〇頁が参考になる。)。

2  このように、食糧費は、文字どおり、行政事務、事業の執行上直接的に費消される経費である点で、対外的に活動する地方公共団体の長その他の執行機関が、その行政執行のために必要な外部との交際上要する経費で、歳出予算の款・項・節のうち、節の区分中の「10 交際費」の予算科目から支出され、性質上広い裁量が認められる経費である交際費とは、基本的な性格が異なるのである(地方自治法二二〇条一項、同法施行令一五〇条一項三号、二項、同法施行規則一五条二項別記。右「自治用語辞典」296~297頁、最高裁平成六年二月八日第三小法廷判決・民集四八巻二号二五五頁の千葉勝美解説・法曹時報四八巻一一号一一七頁参照)。

二  食糧費の支出の範囲

右一のとおり、食糧費は、行政事務、事業の執行上直接的に費消されるものであって、接遇という場で支出することを目的としたものではないけれども、行政事務、事業の執行上、外部者の参加を求めて懇談会等の会合を持つ必要があり、これと同時に又は引き続いて、会合自体では不十分なところを補ったり、あるいは外部者に対し、会合への出席、情報・助言の提供に対する儀礼の趣旨の接遇を兼ねて、食糧費というにふさわしい節度ある会食をすることは、なお食糧費の支出の範囲内であるということができる。

しかし、予算の目的からも、行政事務、事業の執行上直接的に費消されるものである点で交際自体を目的とする交際費とは厳に区別すべきものであることにかんがみれば、食糧費の運用が安易に流れ、際限なくその支出の対象が拡大することは厳に戒めなければならず、接遇が食糧費としての節度を失い、あるいは社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には、食糧費による接遇費の支出が違法との評価を受ける場合があるのは当然のこととして、行政事務、事業の執行に伴う接遇が許されるとしても、そもそも行政事務、事業の執行が常に会食を伴う会合の形式で行わねばならないものでもない。特に、国又は他の地方公共団体の公務員との間で会食を伴う会合を行い、その費用を食糧費から支出してきた旧弊たる行政手法は、いわゆる「官官接待」と椰楡、指弾され、広く国民の不信を招いているところであって、その濫用や安易な運用がないよう慎重な配慮が必要である(大阪高裁平成八年一一月二七日判決・判例地方自治一六一号二七頁参照)。この点は、食糧費の出所が、県民が額に汗して納めた税金にあることに思いを致すと容易に理解できるであろう。

三  食糧費の目的外使用と開示義務免除の関係

1  原告らは、東京事務所職員が行政事務を円滑に執行するために、県庁外部の者と協議・調査を行うことを目的として行われる懇談等に要する経費は、本来、交際費から支出されるべきものであって、食糧費から支出することは予算の目的外使用として違法であり、かかる違法な支出を伴う懇談等について八条八号にいう「公正若しくは円滑な執行」という公益概念を過大視することは適当でなく、予算の違法な目的外支出を伴う懇談等に関する情報に関しては、同号の解釈に当たって、当該懇談等に関する情報を開示し、当該懇談等の費用が食糧費から目的外支出されたことを考慮すべきである旨主張している。

2  右のように解釈することは、食糧費からの支出が予算の目的外使用として違法であるかどうかという実体判断を実質上先行させることを意味する。

しかしながら、本条例の目的が「県民の公文書等の開示を求める権利を明らかにするとともに、県が実施する情報公開施策の推進に関し必要な事項を定めることにより、県民の県政に対する理解と信頼を深め、もって県民参加による公正で開かれた県政を一層推進すること」(一条)にあることにかんがみれば、八条八号は、県の行政の適法違法に関係なく(換言すれば、当該情報が違法な内容を含むかどうかという実体判断をすることなく、県又は国等が行う事務事業に関する情報)について、それを開示することにより、当該事務事業の目的が損なわれるかどうか、特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるかどうか、又は当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるかどうかを、当該情報の内容から形式的、客観的に判断すべきことを先行させることを要求していると解されるから、原告らの右見解は採用できない。

第三  八条二号該当性について

一  同号の趣旨、解釈、運用について

1  被告は、同号は、自然人が特定される情報一般について開示義務が免除されるものではないとしながら、「個人情報について非開示の原則を定めたのは、個人のプライバシーは最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟であり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であること、しかし、個人に関する情報がいったん開示されると、当該個人に対し回復し難い損害を与えることがあるから、個人の尊厳及び基本的人権を尊重する観点に基づき、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得る情報については、公務員たると非公務員たるとを問わず、原則非開示とすることを定めたものである」と主張するが、同主張は、ほぼ手引の解説(甲一26頁、28頁)に沿うものであり、同手引は、さらに、

(一) 同号にいう「個人に関する情報」を、思想、宗教等個人の内心に関する情報、健康状況、病歴等個人の心身の状況に関する情報、婚姻歴、家族状況、生活記録等個人の家庭等の状況に関する情報、学歴、職歴等個人の経歴に関する情報、団体活動記録、交際関係等個人の社会活動に関する情報、所得、資産等個人の財産状況に関する情報その他一切の個人に関する情報をいう(27頁)

(二) 「特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」とは、当該情報から特定の個人が判別でき、又は判別できる可能性のある情報をいう(27頁)

(三) 個人に関する情報は、いったん開示されると、当該個人に対して回復し難い損害を与えることがあることから、特にプライバシーに関する情報については、個人の尊厳及び基本的人権の尊重の観点から、最大限保護されるよう配慮する、特定の個人であるかどうかを識別するのは、通常住所及び氏名をもって行われているので、住所及び氏名が記録されている公文書等の場合は、おおむね同号に該当する(28頁)

等と解説し、運用の指針を示しているが、条文の趣旨、文言にほぼ忠実であって適切である。

2  そうとすれば、同号の規定により開示されないことの利益は、個人の正当な権利利益であって、その中心部分は、憲法一三条が保障する個人のプライバシーの権利の保護にあると解される(乙一(平成八年一二月一六日付け行政改革委員会編「情報公開法制の確立に関する意見」)の24~25頁)。

3  ところで、憲法二一条一項の表現の自由に由来する知る権利を具体化した積極的権利である公文書開示請求権が、ときとして、憲法一三条によって保護される消極的な権利である(開示請求文書に記載されている者の)プライバシー権との緊張関係場面を招来することは本条例制定当初から予想されていた大問題である。本来、両権利が衝突する可能性がある場合、どちらを優先させるべきかは事案ごとに異なるものであり、実施機関がその調和を図るべく解釈、運用することが出来れば、それが望ましいことは異論ないものと思われる。しかしながら、予想される大量の公文書等の開示請求及び大量処理に当たって、実施機関に事案ごとにその調和を図らせることは難きを強いることになるので、その困難を緩和する趣旨で、個人を識別できる情報であっても、同号ただし書に該当する三類型の情報は、プライバシー権を侵害するものであっても、公文書開示請求権の利益が大きいことが明らかなものとして開示請求権を優先させ、そうでない個人識別情報は、プライバシー権を侵害するおそれがあるとの前提のもとで、公文書開示請求権をプライバシー権に劣後させ、原則非開示とした趣旨であると解するのが相当である。

したがって、両権利の調和を図ることを可能ならしめるためには、一見、同号の文言には反するかのようであるが、開示請求に係る当該情報の客観的性質との関係で、開示請求文書に記載されている者のプライバシー権を中心にして、当該個人の正当な権利利益の侵害が生じる余地のない情報は、特段の事情がない限り、同号のいう「特定の個人が識別され、又はされ得るもの」には含まれないと解するのが相当である。

そう解さないと、個人識別情報に関する限り、同号ただし書が定める三つの場合を除いて、常に公文書開示請求権を劣後させるということになって、本条例が公文書の非開示条例になってしまう危険があり(別紙2(甲八)は、一部開示・一部非開示の一例であり、これでは一部開示の名に値しない。もちろん、正当な非開示理由があれば別であるが、公文書開示請求権が憲法二一条一項の表現の自。)由に由来する知る権利を具体化した趣旨を没却することになるのみならず、前記した「個人のプライバシーの概念は法的に未成熟であり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難である」(甲一の26頁、乙一の24~25頁)という公文書開示請求権とプライバシー権の優劣とは無関係の理由を楯に、実質上プライバシー権に優位性を認めて両権利の調和を崩す(角を矯めて牛を殺す)結果を承認することになり、「実施機関は、県民の公文書等の開示を求める権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、及び運用するものとする。この場合において、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることのないように最大限の配慮をしなければならない」と規定して「みだりに」としぼりをかけていること(三条)、及び手引(甲一の11~12頁)が「八条各号に規定する適用除外事項に該当するかどうかについては、原則公開の観点から厳正な判断をしなければならない」といっている趣旨にも反するからである。

手引(甲一の28~30頁)が同号該当の非開示文書として例示しているもの(世論調査等意識調査票、信者名簿、個人相談カード、健康診断書、診療録、身体検査書、精神衛生相談記録、身体障害者手帳交付台帳、施設入所者カード、生活保護決定調書、生活相談記録、住民票、扶養届、履歴書、戸籍謄本、刑罰等調書、職員の履歴カード、学業成績、資格試験成績、団体活動記録(功績調書等)、社団法人の社員名簿、モニター名簿、預金残高証明書、口座番号、所得証明書、納税証明書、売買契約書、不動産鑑定書、固定資産評価額、給与明細書、収入額、年金等受給者一覧)は、当該文書に記載されている者のプライバシー権を中心にして、当該個人の正当な権利利益の侵害が生じる余地があると推認されるような情報であるが、このことは示唆的である。

4  原告らは、同号のいう「特定の個人が識別され、又はされ得るもの」とは、特定の個人に関する情報のうち「一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」であって、かかるものについて、その開示義務を免除したものであり、その主張立証責任は被告にあると主張するかのようであるが、同主張は、同号の文言に反するのみならず、その趣旨からも離れるものとして採用し難い。

二  本件文書への適用

1  問題の所在

八条二号該当を理由として非開示とされた部分は、本件開示請求に係る文書のうち、事実欄第三の四の1、2のとおり、平成六年度分については「懇談等の相手方等出席者が識別されうる部分、平成七年度分については「懇談等の相手方」等出席者が記載されている部分及び出席者が識別されうる部分」(別紙1文書目録一並びに同目録二の1及び2の各(三)参照)である。

ところで、食糧費の執行過程における懇談等での宴会、会食の類は、主催者側の出席者である県職員とその相手方である県職員以外の公務員及び(又は)民間人の出席者によって開催される場合と県職員のみの出席者によって開催される場合がそれぞれ想定されるので、それら出席者の識別されうる部分を非開示とすることの当否が問題となる。

2  県職員の出席者が識別されうる部分について

(一) 県職員の公務遂行におけるプライバシー

(1) 一般に県職員の職務遂行に係る情報には、県職員の職、氏名に関する情報で構成されるものが少なくなく、この種の情報は、行政事務に関する情報であるとともに、当該県職員の個人の社会活動に関する情報でもあり、このうち、当該県職員の職に関する情報は、行政事務に関する情報としてはその職務行為に関する情報と不可分の要素であり、県民の県政に対する理解と信頼を深めるためには、これを明らかにする意義は大きいが、他方、県職員の氏名は、行政事務の遂行に係る行政組織の内部管理情報として担当県職員を特定するために行政文書に記録されることが多く、同時に、氏名は当該県職員の私生活においても個人を識別する基本的な情報として一般に用いられており、みだりにこれを開示すると、県職員の私生活等に影響を及ぼすことがありうる(乙一の26頁)。

(2) 右(1)のような事情は、食糧費の執行過程における懇談等への出席のように、県の職員の職、氏名に関する情報が、当該県職員の職務の遂行に係る情報を構成している場合においても当てはまるかの如きである。

しかしながら、県職員の職はもちろん、氏名に関する情報が、当該県職員の職務の遂行に係る情報を構成している場合に、その職、氏名に関する情報について本条例がどういう評価を与えていると解するべきかについては、地方自治の基本法である地方自治法における普通地方公共団体の職員と住民との関係に遡って検討する必要があるところ、同法は、住民に、首長・議員を選定・罷免し、あるいは、条例制定などの直接請求を行い、県の財務会計行為の監査を求め、非違行為の是正を請求する権利を認めているが、住民によるこれらの権限行使を実効あらしめるためには、その資料となる行政機関保有の情報が広く住民に開示される必要がある。後者について詳論すれば、住民は、普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担があると認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査請求ができる住民監査請求制度を定め(二四二条、同監)査請求をした場合において、監査委員の監査結果等に不服があるときは、当該普通地方公共団体に代位して、裁判所に対し、当該職員を被告として、訴えをもって損害賠償等の請求ができる住民訴訟制度(二四二条の二)を設けている。右の住民監査請求、住民訴訟制度は、地方自治の本旨に基づく住民参政の一環として、地方自治法上の重要な諸制度の一つであることに思いを致すと、住民監査請求、住民訴訟をするかどうかを判断するための情報を取得するためにも、当該職員の職、氏名は、当該職員の財務会計上の行為又は怠る事実と不可分一体の情報として、住民に対して公開される必要があると解される。本条例による公文書開示請求権が、県民の地方自治法に基づく住民監査請求、住民訴訟の各権限の円滑な行使に資することをも予定していることは、本条例が「県民参加による公正で開かれた県政」の推進をその目的(一条)に掲げていることからも窺われるところであり、県職員の職務の遂行に係る情報を構成する当該職員の職、氏名一切が、個人識別情報に該当するとの一事でもって、開示の適用除外事項とされるということは、本条例の立法趣旨に反し、本条例の予期することではないと解される。

(二) 食糧費の執行と県職員の公務遂行におけるプライバシーの関係

加えて、前記のとおり、食糧費が、行政事務、事業の執行上直接的に費消されるものであることにかんがみれば、特段の事情がない限り、その執行が宴会、会食を伴う懇談であっても(前記した食糧費というにふさわしい節度あるものであるかどうかとは関係なく、ここでも、それが適法であったか否かの実体判断をする必要がないことは、第二の三の2で説示したのと同一理由である。)、県職員が公務の遂行上費消したものであって、県職員の出席者が識別されうる部分についてプライバシー権を中心にして、個人の正当な権利利益の侵害が生じる余地のない情報であると推認されるところ、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

換言すれば、特段の事情がない限り、県職員の食糧費の執行における宴会、会食を伴う懇談において、県職員の出席者が識別されうる部分が記載されている部分が開示されたからといって、右一の3にいう当該県職員のプライバシー権を中心にして、当該個人の正当な権利利益の侵害が生じる余地はないと推認されるところ、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

したがって、県職員の出席者が識別されうる部分が記載されている部分は、同号のいう「特定の個人が識別され、又はされ得るもの」には含まれないと解される(文書の公開の可否を決するに当たり、食糧費のもつ性質を踏まえて判断すべきことは当然と解される(最高裁平成六年一月二七日第一小法廷判決・民集四八巻一号五三頁の千葉勝美解説・法曹時報四七巻四号二一八頁参照。食糧)費支出の適法性の実体判断をする必要がないことの裏返しである。)。

3  県職員以外の公務員の出席者が識別されうる部分(懇談等の相手方等出席者が記載されている部分及び出席者が識別されうる部分)について

右2の(一)、(二)で説示した理は、出席者名簿のうちの相手方に、県職員以外の公務員(国家公務員や他の地方公共団体の職員)の職、氏名が含まれている場合にも何ら異なるところはない。

というのは、県職員以外の公務員の場合も、住民訴訟において、地方自治法二四二条の二第一項四号後段によって被告とされることがありうる(最高裁昭和五〇年五月二七日第三小法廷判決・判例時報七八〇号三六頁、同昭和五三年六月二三日第三小法廷判決・判例時報八九七号五四頁参照)のみならず、県職員の職務の遂行過程で、当該職務の相手方等の関係者として関与している場合、職務(公務)として関わっているのが原則であるから、この種の情報は、県職員以外の者の個人の社会活動に関する情報であるとともに、県職員以外の者の公務に関する情報であって、県職員の職務の遂行に係る情報と密接な関係にあるから、県民の県政に対する理解と信頼を深めるためには、これを明らかにする意義は大きく、また、前記した食糧費の性質上、特段の事情がない限り、県職員の行政事務、事業の執行上直接的に費消される過程に、県職員以外の公務員が関与する場合、当該公務員のプライバシー権を中心にして、個人の正当な権利利益の侵害が生じる余地のない情報であると推認されるからである。

そして、本件において、右特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、県職員以外の公務員が出席者として識別されうる部分も、同号のいう「特定の個人が識別され、又はされ得るもの」には含まれないと解される。

4  民間人の出席者が識別されうる部分が記載されている部分について

(一) 懇談等の相手方出席者名簿のうちに民間人の氏名が識別されうる部分が含まれている場合に、右3と全く同一に論じることができるかどうかは検討を要する。

というのは、民間人の場合も、住民訴訟で被告とされることがありうること(二四二条の二第一項四号後段、右3に掲記した最高裁判決参照)、また、この種の情報が、民間人である個人の社会活動に関する情報であるとともに、県職員の職務の遂行に係る情報とも密接な関係にあるから、県民の県政に対する理解と信頼を深めるためには、これを明らかにする意義が大きいことは、県職員以外の公務員の場合と異なることはないが、社会通念上、いかなる経過で、いかなる行政事務、事業の執行上、県職員のだれと、県の食糧費の費消に関わったかは、いろんな事情が想定され、しかも、当該民間人にとっては一面では私的な事柄であって、かかる情報はプライバシー権を中心にして、個人の正当な権利利益の侵害が生じる余地のない情報と断じることができるかどうか、検討の余地があるからである。

(二) しかし、民間人の場合であっても、県の行政事務、事業の執行上行われる懇談(宴会、会食)に関与する以上、県職員の公務遂行過程に関与していることは当然認識していたはずであり、また、前記した食糧費の性格を併せしんしゃくすると、交際費の支出と異なり、食糧費の執行としての懇談(宴会、会食)への出席は、県の行政事務、事業そのものへの関与にほかならないから、当該行政事務、事業が当該民間人のプライバシー権を中心にした正当な権利利益と密接に関連しているといった特段の事情がない限り、個人識別情報として出席を秘匿すべきことは予定されておらず、出席者としても、それが公表されることがあり得ることを自覚しておくべきことは、県職員以外の公務員の場合と異なるところはないと解される。

そうとすれば、民間人の場合であっても、食糧費の執行過程で懇談(宴会、会食)に出席し、その事実が開示されたからといって、同情報は、右一の1の(一)に例示した類のプライバシー権を中心にした正当な権利利益の侵害が生じうる個人情報と一体として記録されていたり、あるいは、他の情報と組合わせることによって右個人情報が特定されるといった特段の事情がない限り、当該民間人のプライバシー権を中心にして、個人の正当な権利利益の侵害が生じる余地のない情報であると推認されるところ、右特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、当該民間人が出席者として識別されうる部分も、同号のいう「特定の個人が識別され、又はされ得るもの」には含まれないと解される。

5  被告は、公務員に関し、その氏名が開示されることになれば、個人攻撃、嫌がらせ等(乙二)によりその私生活・家庭生活の平穏が脅かされるであろうと指摘して、被告の主張の正当性を根拠づける。

確かに、右2ないし4のような判断は、公務員のみならず民間人に対して個人攻撃、嫌がらせ等大変な痛みを与える結果を招くおそれがあるかもしれない。中には、良心の呵責に耐えながら、旧態依然たる慣行に従い、あるいは現状に合わない規則等にしばられ、心ならずも悪弊に流されてきた者もいるであろう。しかしながら、右のような個人攻撃、嫌がらせは、公務員が公僕である(憲法一五条二項)ことに思いを致し、公務員が(民間人と協力しながら)、悪弊に敢然と立ち向かう勇気、誇り、自信をもって、名実ともに正義と論理を優先する透明な行政を目指し、近づく二一世紀を準備し、胸を張れる魅力ある県を創造していくために、是非とも乗り越えてもらいたい病理現象である。この病理現象を過大視して、公文書開示請求権の意義を失わせるわけにはいかないから、被告の右主張は採用できない。

6  まとめ

よって、本件処分中、非開示部分・その3の情報が八条二号にいう個人識別情報に当たるとして非開示とした処分は、違法である(本件は、知事の交際費に関する前掲最高裁平成六年一月二七日第一小法廷判決とは事案を異にし、同平成六年二月八日第三小法廷判決に類似する。)。

(なお、証拠(甲二、四、六)によれば、本件処分を記載した公文書等一部開示決定通知書中の各備考欄に、本件開示請求に係る分のうち、いずれも平成六年度分( )、( に係る秘書課執行分甲二東京事務所執行分甲四)及び財政課執行分(甲六)の「出席者名簿については、既に廃棄しているので御了承願います」と記載されていることが認められる。しかしながら、右各通知書中の非開示部分には、右二の1のとおり、非開示部分を平成六年度分については「懇談等の相手方等出席者が記載されている部分」(別紙1文書目録一並びに同目録二の1及び2の各(三)参照)と特定した上、非開示理由として、事実欄第三の四の1の(三)の(2)のとおり明記し、廃棄済みであるとの理由は記載していないこと、かつ、本件訴訟においても、被告は平成六年度分について廃棄済みであるから開示不能であるとは主張していない(したがって、この点は争点になっていない。)ことに照らすと、右備考欄の記載をもって、平成六年度分の右各出席者名簿が廃棄されていると認めるのは困難である。)

第四  八条三号該当性について

一  手引(甲一の31~32頁)は、

1  八条三号の趣旨を、「法人その他の団体及び事業を営む個人の事業活動の自由その他正当な利益を尊重し、保護する観点から、開示することにより、事業を行うものの競争上の地位その他正当な利益を害することになるような情報は、開示しないことができること、なお、現代社会において、法人等は大きな社会的存在となっており、その活動が社会に及ぼす影響も大きく社会的責任が求められていることから、公益上の必要がある場合等ただし書に当たるものについては、開示することとしたものである」

2  同号の「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」とは、次のような情報をいう。

(一) 法人等又は事業を営む個人の保有する生産技術上又は販売・営業上の情報であって、開示することにより、当該法人等又は事業を営む個人の事業活動が損なわれると認められるもの

(二) 経営方針、経理、労務管理等事業活動を行う上での内部管理に属する事項に関する情報であって、開示することにより、法人等又は事業を営む個人の事業運営が損なわれると認められるもの

(三) その他開示することにより、法人等又は事業を営む個人の名誉、社会的評価、社会的活動の自由等が損なわれると認められるもの

と解説しているが適切である。

二  ところで、当該情報が開示されることにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益を害するものと認められるかどうかの判断は、本条例の目的(一条)、解釈及び運用(三条)の各規定の趣旨からすると、一般に、当該情報の内容、性質、当該法人等又は当該事業を営む個人の事業内容、その事業活動等における当該情報の重要性等の諸般の事情を総合して、個別具体的に判断するのが相当である。

三  本件文書への適用

1  八条三号該当を理由として非開示とされた部分は、本件開示請求に係る文書のうち、事実欄第三の四の1の(一)及び同2の(一)のとおり、

「非開示部分・その1 債権者の住所氏名等が記載されている部分及び債権者が( ( 識別できる部分別紙1文書目録一並びに同目録二の1及び2の各一)参照)」と

「非開示部分・その2 債権者の取引金融機関、預金種別、口座番号等が記載されている部分(同目録一並びに同目録二の1及び2の各(二)参照)」である。

2  非開示部分・その1(債権者の住所氏名等が記載されている部分及び債権者が識別できる部分)について

(一) 当事者間に争いない事実と証拠(甲九の1、2、一〇、一一の1、2、一二)によれば、請求書、計算書、支出負担行為・支払命令票、集合支払内訳票等の文書には、債権者の住所氏名等が記載されている部分、又は債権者が識別できる部分があり、また、右請求書には、料理や飲物等の売上単価、数量、奉仕料、合計金額、飲食日時等の情報が記載されていることが認められる。

しかし、非開示部分・その1が開示されても、当該文書に記載されている情報は、飲食店、料理や飲物等の売上単価、数量、奉仕料、合計金額等の当該飲食店を利用する顧客を始めとする公衆に広く開示されている情報にすぎず、それ以上に当該飲食店を経営する事業者の営業上の有形・無形の秘密、ノウハウ等、同業者との対抗関係上特に秘匿を要するような営業情報が記録されているわけではなく、また、数ある顧客の中の、しかも地方公共団体の一部門である財政課、秘書課、東京事務所の、かつ特定年度の利用状況が明らかにされるだけであるから、このような情報が公開されたからといって、本来事業者のみが管理保有し得べきはずの営業情報や経営内容が当該事業者の意思に反して外部に流出することになるとは認められないし、財政課、秘書課及び東京事務所の利用の事実が明らかになったからといって当該飲食店等の社会的評価を低下させることになるとも通常は考え難く、また、これに反する証拠もない。

(二) 被告は、右(一)の判断に反して、秘書課、財政課及び東京事務所が二箇年にわたって執行した食糧費の支出に係る全ての公文書が開示され、また長期間にわたってこれらの情報が集積されると、本来事業者のみが管理保有し得べきはずの営業情報や経営内容が当該事業者の意思に反して外部に流出することになると主張しているが、これを認めるに足りる証拠はない。

(三) よって、本件処分中、非開示部分・その1の情報が八条三号に当たるとして非開示とした被告の処分は違法である。

3  非開示部分・その2(債権者の取引金融機関、預金種別、口座番号等が記載されている部分)について

(一) 当事者間に争いない事実と証拠(甲九の1、2、一〇、一一の1、2、一二)によれば、本件文書のうち支出負担行為・支払命令票、請求書には、債権者の支払先金融機関、預金種別、口座番号等がそれぞれ記載されていることが認められる。

これらの情報は、県に対する請求書等においていわば公にされており、一般に発行される請求書に記載されている場合もあることは被告も自認するが、本来これらの情報は、法人等及び個人が事業を営む上で必要な金銭の出納又は事業資金の管理に関する重要な内部管理情報に属する性質の情報であり、どの範囲でこれらの金融情報を明らかにするかは債権者の任意の選択に委ねられるべきものであると解される。

そうとすれば、債権者の同意もなくこれらの情報を広く開示することは、債権者の正当な利益を害するものと推認するのが相当であるところ、これに反する証拠も、これらの情報が同号ただし書に該当する事情を認めるに足りる証拠もない。

(二) よって、本件処分中、非開示部分・その2の情報が八条三号に当たるとして非開示とした被告の処分は適法である。

第五  八条八号該当性について

一  手引(甲一の44、45頁)は、

1  本号の趣旨を、県又は国等が行う事務事業の目的を達成し、又は事務事業の公正若しくは円滑な執行を確保する観点から、開示することにより、これらに支障の生ずるおそれのある情報は開示しないことができることを定めたものである。すなわち、行政が行う事務事業の中には、その目的、性質等からみて、執行前又は執行過程で情報を開示することにより、当該事務事業の実施の目的を失い、又は当該事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障を生ずるものがある。また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの、又は公正若しくは円滑な執行に支障を生ずるものがあることから、同号は、これらの情報を開示しないことができることとした。

2  同号の「監査、検査、取締り、許可、認可、試験、入札、徴税、交渉、渉外、争訟」は、県又は国等が行う事務事業の例示列挙と解されるから、同号は県又は国等が行う事務事業全般に関する情報を対象としており、「事務事業に関する情報」とは、極めて多種多様な内容のものが想定される。

と解説しているが適切である。

二  そうすると、当該情報を開示することにより、「当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがある」かどうかは、当該情報及び当該事務事業の具体的内容、当該事務事業の執行における当該情報の意味合い等の諸般の事情を総合して、個別具体的に判断されるべき事項であり、また、右「支障が生ずるおそれ」は、単に実施機関の主観においてそのおそれがあると判断されただけでなく、そのようなおそれが具体的に存在することが必要と解される。

三  本件文書への適用

1  八条八号該当を理由として非開示とされた部分は、本件開示請求に係る文書のうち、事実欄第三の四の1の(三)のとおり、平成六年度分については「懇談等の相手方等出席者が記載されている部分」、平成七年度分については「懇談等の相手方等出席者が記載されている部分及び出席者が識別されうる部分」(別紙1文書目録一並びに同目録二の1及び2の各(三)参照)」である。

2(一)  ところで、被告は、右非開示理由として、秘書課、財政課及び東京事務所が、各所掌事務を円滑に遂行するために行う懇談等は、これを実施すること自体が、同号にいう「交渉「渉外」に該当し、このような懇談等は、秘書」、課、財政課及び東京事務所が、それぞれ、事業の円滑な執行を図るという行政上の具体的必要を認めて、合理的な裁量によって、相手方、場所等を選別・決定した上で行われるものであり、その開催目的や実施の事実等については、関係者間でのみ承知されていることが一般であって、懇談等の相手方も、そのように理解してこれに出席していたものであり、したがって、相手方の事前の同意なしに所属・氏名等を開示すると、相手方が不信、不快の念を抱き、お互いの信頼、協力関係が損なわれ、以後の懇談等の出席を拒否されたり、率直な意見交換が控えられるようになり、結果として業務の円滑な実施等、行政運営に支障が生ずるおそれがあると主張している。

抗弁二の1の秘書課、財政課及び東京事務所の各所掌事務は、原告らも明らかに争わないので、同事実を自白したものと認められるところ、確かに、同所掌事務には、知事・副知事の秘書(秘書課)、県財政に関すること、県議会との関係に属すること(以上財政課)、中央官庁との連絡調整、情報収集、企業誘致、観光宣伝、県産品の販路拡大(以上東京事務所)など、外部者が出席する懇談会等が開催されうる事務事業が含まれていると推認され、したがって、右各所掌事務を円滑に遂行するために行う懇談に伴う会食、宴会の類は、これを実施すること自体が、県の交渉、渉外等の事務事業に該当し、このような懇談等は、右各部署が、それぞれ、事業の円滑な執行を図るという行政上の具体的必要を認めて、合理的な裁量によって、相手方、場所等を選別・決定した上で行われるものであると推認される。

(二)  しかし、前記したとおり、食糧費は、交際費と異なり、行政事務、事業の執行上直接的に費消されるものであることにかんがみれば、会食を伴った懇談等が、出席者(県職員であろうと、それ以外の公務員、民間人であろうと同じ)にとって、当然に非公式、非公開である必要のあるものとは認め難い。

もっとも、その目的とする事務、事業が右のように多種多様であることから、懇談の目的とする事務、事業の性質上その開催目的や実施の事実等について関係者間でのみ承知されなければならず、当然に非公式、非公開である必要のあるものがありうるとすれば、懇談等の相手方も、そのように理解してこれに出席していたものであって、相手方の事前の同意なしに所属・氏名等を開示すると、相手方が不信、不快の念を抱き、お互いの信頼、協力関係が損なわれ、以後の懇談等の出席を拒否されたり、率直な意見交換が控えられるようになるという特段の事情があれば別であるが(この点で、知事の交際費に関する前掲最高裁平成六年一月二七日第一小法廷判決とは事案が異なる。)、この特段の事情を認めるに足りる証拠はない(前掲最高裁平成六年二月八日第三小法廷判決参照)。

3  よって、本件処分中、非開示部分・その3の情報が八条八号に当たるとして非開示とした被告の処分は違法である。

第六  結論

以上のとおり、本件処分のうち、

一  平成八年九月二日付けでした別紙1文書目録一の(一)及び(三)の各部分並びに

同月三日付けでした同目録二の1の(一)及び(三)並びに同2の(一)及び(三)の各部分を開示しないとの各処分は、いずれも違法であって取り消されるべきであるから、この部分の取消請求を認容し(主文第一項関係)、

二  文書目録一の(二)並びに文書目録二の1の(二)及び同2の(二)の各部分を開示しないとの各処分は、適法であるから、この部分の取消請求を棄却する(主文第二項関係)。

(裁判長裁判官 簑田孝行 裁判官 山本由利子 裁判官 冨田敦史)

別紙1 文書目録一

平成六年度分及び平成七年度分の鹿児島県秘書課執行の食糧費支出に係る資料(支出負担行為・支出命令票、請求書及び出席者名簿)のうち、

(一) 債権者の住所・氏名等が記載されている部分及び債権者が識別できる部分

(二) 債権者の取引金融機関、預金種別、口座番号等が記載されている部分

(三) 懇談等の相手方等出席者が識別されうる部分(ただし、平成七年度分については「懇談等の相手方等出席者が記載されている部分及び出席者が識別されうる部分」)

文書目録二

1 平成六年度分及び平成七年度分の鹿児島県東京事務所執行の食糧費支出に係る資料(支出負担行為・支出命令票、請求書及び出席者名簿)のうち、

(一) 債権者の住所・氏名等が記載されている部分及び債権者が識別できる部分

(二) 債権者の取引金融機関、預金種別、口座番号等が記載されている部分

(三) 懇談等の相手方等出席者が識別されうる部分(ただし、平成七年度分については「懇談等の相手方等出席者が記載されている部分及び出席者が識別されうる部分」)

2 平成六年度分及び平成七年度分の鹿児島県財政課執行の食糧費支出に係る資料(支出負担行為・支出命令票、請求書及び出席者名簿)のうち、

(一) 債権者の住所・氏名等が記載されている部分及び債権者が識別できる部分

(二) 債権者の取引金融機関、預金種別、口座番号等が記載されている部分

(三) 懇談等の相手方等出席者が識別されうる部分(ただし、平成七年度分については「懇談等の相手方等出席者が記載されている部分及び出席者が識別されうる部分」)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例